ラブラドールを看取ったあなたへ。超大型犬を飼う覚悟を問う最終確認

この記事の書き手

鈴木 徹 (Suzuki Toru)

超大型犬専門ブリーダー歴25年 / 元動物看護師

バーニーズ・マウンテン・ドッグとレオンベルガーの健全な作出に生涯を捧げ、これまで200頭以上の犬たちの生と死に向き合ってきました。私が送り出す子犬の幸せを願い、迎えるご家族の覚悟を厳しく問う姿勢から、いつしか「最後の門番」と呼ばれるようになりました。この記事では、私の25年分の経験のすべてを、誠心誠意お伝えします。


長年連れ添ったラブラドールを14歳で看取られたとのこと、心から敬意を表します。

その素晴らしい経験があるからこそ、今、あなたは「次のステージ」として、超大型犬という長年の夢に手を伸ばそうとしているのでしょう。

しかし、敢えて厳しく言わせてください。

その素晴らしい経験と自信は、一度、すべてリセットしなければなりません。

この記事は、よくある美しい写真が並んだ犬種図鑑ではありません。

あなたの夢が、後悔なき現実になるか、あるいは賢明な諦めに変わるか。

その覚悟をあなた自身に問うための、大型犬経験者限定のファイナルアンサーです。

この記事を読み終えた時、あなたは超大型犬の一生を支えきる「本当の意味」を理解し、ご自身の進むべき道が明確になっているはずです。

H2-1: まず、あなたの経験をリセットしてください。大型犬と超大型犬、3つの決定的な違い

ラブラドールとの14年間は、何物にも代えがたいあなたの宝であり、誇りです。

その経験は、犬という生き物への深い理解と愛情を、あなたに与えてくれたはずです。

しかし、私が「門番」として最初にお伝えしなければならないのは、「大型犬の飼育経験は、超大型犬の飼育において、時に油断という最大の落とし穴になる」という厳しい現実です。

多くの経験者が、超大型犬との暮らしを「ラブより少し大きい版」だろうと想像して門を叩きます。

そして、その想像と現実のギャップに打ちのめされるのです。

その違いは「量の差」ではなく、まったくの「質の差」。

次元が違うのです。具体的には、以下の3つの点で決定的に異なります。

  1. コストの次元: 食費や医療費が1.5倍になる、というような生易しい話ではありません。後述しますが、生涯コストは2倍以上になり、一度の外科手術で100万円が消えることもあります。
  2. 「力」の次元: ラブラドールの引きを制御できたあなたの腕力は、超大型犬の前では無力かもしれません。体重70kgの犬が本気で突進した時、それは「散歩」ではなく「事故」です。
  3. 健康リスクの次元: 大型犬にも特有の病気はありますが、超大型犬は常に「突然死」のリスクと隣り合わせです。彼らの巨大な体そのものが、命を脅かす時限爆弾を内包しているのです。

あなたの素晴らしい経験を否定するつもりは毛頭ありません。

しかし、これから先へ進むためには、一度プライドを脇に置き、謙虚な心で未知の領域に足を踏み入れる覚悟が必要です。

H2-2: 「穏やかな巨人」が抱える時限爆弾。胃捻転と癌、そして短すぎる寿命の現実

超大型犬の魅力は、その圧倒的な存在感と、多くの場合、非常に穏やかで優しい気質にあります。

しかし、その魅力は常に、残酷な現実と表裏一体です。

特に飼い主が覚悟すべきは、彼らの命に直結する深刻な健康リスクです。

その最たるものが、胃捻転(GDV)です。

これは、巨大で深い胸郭を持つ犬種に特有の疾患で、胃がガスで膨れ上がり、ねじれてしまうことで、発症からわずか数時間で死に至る極めて緊急性の高い病気です。

胃捻転(GDV)という致死性の高いリスクに対し、獣医学界では、避妊・去勢手術と同時に胃を腹壁に固定する「予防的胃固定術」が、特にリスクの高い犬種に対して有効な選択肢として認知されつつあります。

そして、もう一つ直視すべきは、犬種特有の疾患、特に癌の問題です。

例えば、あなたが憧れるバーニーズ・マウンテン・ドッグの穏やかで美しいという魅力の裏側には、悪性腫瘍(特に悪性組織球症や血管肉腫)の好発傾向と、それに伴う短い寿命という、避けられない代償が常に存在します。

バーニーズ・マウンテン・ドッグの平均寿命は8.7歳です。

出典: アニコム 家庭どうぶつ白書2023 – アニコム損害保険株式会社

あなたが14年間連れ添ったラブラドール(平均寿命13.0歳)と比較して、およそ5年も短い。この数字の重みを、あなたは受け止めなければなりません。

H2-3: 生涯コスト800万円は序章。あなたが本当に備えるべき「3つの財布」

超大型犬との暮らしを現実にするためには、経済的な覚悟が不可欠です。

抽象的な「お金がかかる」というレベルではなく、具体的な数字でご自身の計画を評価してください。

結論から言うと、生涯コストは800万円、場合によっては1000万円を超えることも稀ではありません。

そして、その費用を管理するためには、「3つの財布」を常に意識しておく必要があります。

  1. 【第1の財布】日常経費(年間 約40〜60万円)
    フード、おやつ、トイレシート、予防薬など、毎月着実に出ていく費用です。ラブラドールと比べてフードの消費量は約2倍になります。
  2. 【第2の財布】計画的医療費(年間 約10〜15万円)
    毎年のワクチン、健康診断、そしてペット保険の費用です。超大型犬の飼育費を考える上で、高額補償のペット保険は議論の余地なく必須装備です。
  3. 【第3の財布】緊急・介護費用(備えとして 最低100万円)
    これが最も重要です。前述の胃捻転や、股関節形成不全(HD)の手術、癌の治療など、一度に50万〜100万円単位の出費が突然発生する可能性があります。この「いざという時の財布」を用意できないのであれば、あなたは門をくぐる資格がありません。

📊 比較表
ラブラドール vs バーニーズ 生涯コスト概算比較

費用項目 ラブラドール・レトリーバー(平均寿命13年) バーニーズ・マウンテン・ドッグ(平均寿命8年)
日常経費(年間) 約 25万円 約 50万円
計画的医療費(年間) 約 8万円 約 12万円
生涯コスト(上記合計) 約 429万円 約 496万円
緊急・介護費用(生涯) 50〜100万円 100〜300万円 (※癌治療など)
生涯コスト合計(目安) 約 500万円 約 600〜800万円

H2-4: その最期まで、腕の中で支えきれますか?体重60kgの老犬介護シミュレーション

この記事の最後に、私があなたに問いたい最も重い質問をします。

それは、お金の話ではありません。あなたの「肉体」と「心」の覚悟についての質問です。

ラブラドールを看取られたあなたは、老犬介護の大変さを知っているはずです。

しかし、その相手が体重60kgの、自分ではほとんど動けない犬だったらどうでしょうか。

想像してみてください。

朝、寝たきりの愛犬の体位を変えてあげるのに、あなたの腰は持ちますか?

床ずれができないように、2〜3時間おきに、奥様と二人で巨体を持ち上げて寝返りを打たせることができますか?

自分の足で立てなくなり、排泄もままならなくなった時、その体を洗い場まで運び、下半身を清潔に保ってあげることはできますか?

バーニーズ・マウンテン・ドッグとの暮らしは、その美しい姿の裏側で、極めて過酷な老犬介護という現実と隣り合わせです。

愛犬が最後の瞬間を迎える時まで、その尊厳を、あなたは腕の中で支えきれますか?

この問いに、即答できないのであれば、今はまだ、その時ではないのかもしれません。


まとめ & 行動喚起

超大型犬との暮らしは、経済力、体力、そして何より「短い命に寄り添い、その過酷な最期を支えきる」という、深く、静かな精神的な覚悟が問われる、究極のパートナーシップです。

それは、人間が犬に与えるものを遥かに超える、多くのものを犬から与えられる、かけがえのない時間でもあります。

この記事の厳しい問いの数々に、もしあなたの魂が、揺らぐことなく「YES」と答えたのであれば、あなたは最高のパートナーになる資格があります。

しかし、もし少しでも迷いがあるのなら、その迷いは、いつか必ず犬にとっての不幸に繋がります。

次のステップは、犬舎に足を運ぶことではありません。

まずは、ご自身の覚悟を、ご家族の覚悟を、もう一度客観的に評価することから始めてください。

それが、あなたの長年の夢に対する、最も誠実な答えの見つけ方だと、私は信じています。


[参考文献リスト]

参考文献

  • 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ (JKC): 犬種標準及び解説
  • アニコム損害保険株式会社: 「家庭どうぶつ白書2023」
  • 公益社団法人 日本動物病院協会(JAHA): 飼い主向け啓発情報

ライター紹介 Writer introduction

いずもいぬ

いずもいぬ

管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。

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