
夕方、愛犬の水入れを洗おうとして、「あれ? 朝入れた水がほとんど減っていない…」と気づいた瞬間、背筋がヒヤッとした経験はありませんか?
「今日一日、この子はずっと喉が渇いていたんじゃないか?」「このまま脱水症状になったらどうしよう」と、不安でたまらなくなりますよね。
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
救急現場でも、脱水は時間との勝負になることがあるからです。
でも、焦ってスポイトで無理やり水を飲ませようとするのは、ちょっと待ってください。
それはかえって誤嚥(ごえん)などの危険を招くことがあります。
まずは落ち着いて、愛犬の状態を正しく判断しましょう。
この記事では、獣医師である私が普段の診察で行っている「緊急度を判定する3秒チェック」と、小型犬に特化した「本当に必要な水分量の目安」をお伝えします。
難しい医学用語は使いません。
今すぐこの場でできるチェックで、あなたの不安を解消しましょう。
[著者情報]
この記事を書いた人:藤井 健吾(獣医師)
小動物臨床・救急医療に従事して5年。夜間救急動物病院での勤務経験を持ち、数多くの「手遅れ」と「取り越し苦労」の両方を見てきた現場派獣医師。「ネットの情報に振り回される飼い主さん」を責めず、自宅でできる適切なトリアージ(緊急度判定)を伝えることをミッションとしている。
今すぐやって! 獣医も行う「3秒脱水チェック(皮膚テント)」
愛犬が水を飲んでいない時、一番怖いのは「脱水症状」です。
しかし、「元気があるから大丈夫」という主観的な判断は危険です。
犬は我慢強い動物なので、ギリギリまで元気に振る舞うことがあるからです。
そこで、私たち獣医師が脱水症状の有無を判定するために最初に行う「皮膚テントテスト」をやってみましょう。
特別な道具は要りません。あなたの手だけで3秒でできます。
手順は以下の通りです:
- 愛犬の首の後ろ(肩甲骨のあたり)の皮膚を、優しく指でつまんで持ち上げます。
- テントのように持ち上がったら、パッと指を離します。
- 皮膚が元の状態に戻るまでの時間を観察してください。
判定基準:
- 1秒以内に戻る: 正常(セーフ)です。今のところ深刻な脱水ではありません。
- 2秒以上かかってゆっくり戻る、または戻らない: 脱水症状(アウト)の疑いがあります。

もし、皮膚が戻るのに2秒以上かかる場合、あるいは「歯茎を触ると乾いてネチャネチャする」「目が落ち窪んでいる」といった様子が見られる場合は、脱水症状が進行している可能性が高いです。
この場合は「様子見」をしている時間はありません。
夜間であっても動物病院に連絡してください。
逆に、皮膚がすぐに戻り、元気や食欲もあるなら、ひとまず緊急事態ではありません。
落ち着いて次のステップへ進みましょう。
トイプードルならコップ1杯弱? 体重別「必要水分量」早見表
「脱水ではなさそうだけど、やっぱり飲む量が少なすぎる気がする…」
そんな不安を感じている方は、そもそも愛犬に「どれくらいの水が必要なのか」を知ることから始めましょう。
環境省のガイドラインなどによると、犬の1日に必要な水分量は、体重1kgあたり50〜60mlが目安とされています。
これをトイプードルなどの小型犬に当てはめて、分かりやすく「コップ(一般的な200mlサイズ)」で換算してみましょう。
📊 比較表
【小型犬用】1日に必要な水分量早見表
| 体重 (kg) | 必要な水分量 (ml) | コップ換算 (200ml) |
|---|---|---|
| 2kg | 100〜120ml | 約 0.5杯 |
| 3kg | 150〜180ml | 約 0.8杯 |
| 4kg | 200〜240ml | 約 1.0杯 |
| 5kg | 250〜300ml | 約 1.3杯 |
出典: 飼い主のためのペットフード・ガイドライン – 環境省
いかがでしょうか?
体重3kgの子なら、1日に必要なのは150ml程度。
コップ1杯にも満たない量です。
しかも、これは「飲み水」だけで摂る量ではありません。
食事に含まれる水分も合わせた合計量です。
特に、最近ドライフードからウェットフード(缶詰やパウチ)に切り替えたという場合は要注意です。
ウェットフードは約75%が水分でできています。
例えば100gのウェットフードを食べれば、それだけで約75mlの水分を摂取したことになります。
つまり、「食事から水分が摂れているので、喉が渇かず、水を飲む量が減った」という正常な反応である可能性が高いのです。
このように、必要水分量と体重には明確な相関関係があります。
「全然飲んでいない」ように見えても、計算してみると実は足りているケースは意外と多いものです。
「元気はあるけど飲まない」時の3つの原因と対策
皮膚チェックもOK、水分量も足りていなさそう。でも元気はある。
そんな「謎の飲み渋り」には、主に3つの原因が考えられます。
1. 食事の変化(ウェットフードへの切り替え)
先ほどお伝えした通り、食事から水分が摂れているパターンです。
これは飲水量が減っても問題ありません。
むしろ理想的な水分摂取ができていると言えます。
2. 老化や季節の影響
シニア犬になると、喉の渇きを感じるセンサーが鈍くなります。
また、冬場など気温が低い時期は、生理的に必要な水分量が減るため、飲む量も自然と減ります。
3. わがまま・環境への不満
意外と多いのがこれです。
「水がぬるくて嫌だ」「容器のにおいが気に入らない」「ヒゲが器に当たるのが嫌」といった理由で飲まないことがあります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: まずは「器」と「置き場所」を変えてみてください。
なぜなら、多くの飼い主さんが見落としがちですが、犬は非常に繊細で、ステンレスの器に映る自分の顔を怖がったり、洗剤の残り香を嫌がったりすることがあるからです。「陶器の器に変えたらガブガブ飲んだ」「部屋の隅から真ん中に移動したら飲んだ」というケースは、現場でも本当によくあります。病気を疑う前に、まずは環境を見直してみる価値はありますよ。
無理やりはNG! 自然と水を飲みたくなる「プロの裏技」
「それでもやっぱり、もう少し飲んでほしい」
そう思う時、絶対にやってはいけないのが「スポイトやシリンジで無理やり口に流し込むこと」です。
嫌がる犬に無理やり水を飲ませると、水が気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こすリスクがあります。これは命に関わる病気です。
代わりに、犬が「自分から飲みたい!」と思うような工夫を試してみましょう。
- ぬるま湯にする(38度前後):
水を少し温めると、香りが立ちやすくなり、犬の興味を引きます。特にお腹が冷えやすいシニア犬におすすめです。 - 「味変」をする:
鶏のササミのゆで汁を数滴垂らしたり、無糖のヨーグルトを少しだけ水に溶かしたりしてみてください。ほんの少し風味がつくだけで、目の色を変えて飲むことがあります。 - フードをふやかす:
ドライフードをぬるま湯でふやかして与えれば、食事と一緒に確実に水分補給ができます。
まとめ:チェックOKなら、今夜は安心して見守ってください
愛犬の異変に気づき、ここまで調べてこられたあなたは、本当に愛情深い飼い主さんです。
まずは、先ほどの「皮膚テントテスト」の結果を信じてください。
- 皮膚がすぐに戻った。
- 元気や食欲はある。
- 歯茎も湿っている。
これらが確認できれば、今すぐ病院に駆け込む必要はありません。
今日は無理やり飲ませようとせず、ぬるま湯やウェットフードなどの工夫を試しながら、ゆっくり休ませてあげてください。
そして、明日の朝、もう一度皮膚チェックをしてみてください。
もしそこで「戻りが遅い」「やっぱりぐったりしている」という変化があれば、その時は迷わず動物病院へ行きましょう。
あなたの冷静な判断が、愛犬の健康を守ります。今夜は安心して、愛犬のそばにいてあげてくださいね。
[参考文献リスト]
- 飼い主のためのペットフード・ガイドライン – 環境省
- 犬が水を飲まない原因とは?病院に連れて行くべき症状を獣医師が解説 – PS保険
ライター紹介 Writer introduction
いずもいぬ
管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。