犬の「赤いイボ」はガン?10歳からのしこり、手術の前にすべき「針一本」の検査

犬の「赤いイボ」はガン?10歳からのしこり、手術の前にすべき「針一本」の検査
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この記事の著者:獣医師・伊藤 幸太郎

腫瘍科認定医 / シニア犬ケアアドバイザー

年間500件以上の腫瘍手術・検査を担当。「飼い主様の不安を取り除くことが治療の第一歩」と考え、シニア犬にも負担の少ない「切らない治療」の選択肢も積極的に提案しています。

「昨日まではなかったのに、急に赤いイボができている…」
「ネットで調べたら『肥満細胞腫』って出てきて怖い…」

愛犬の背中に見慣れない赤いイボを見つけて、心臓が止まるような思いをしていませんか?

特に10歳を超えるシニア犬の場合、「もしかしてガン(悪性腫瘍)?」という不安が頭をよぎり、パニックになってしまうお気持ち、痛いほど分かります。

でも、まずは深呼吸してください。

赤いイボは確かに悪性の可能性もありますが、良性の可能性も十分にあります。

一番良くないのは、怖いからといって「見なかったこと」にしてしまうこと、あるいは逆に、慌てて「すぐに手術しなきゃ!」と思い込んでしまうことです。

この記事では、見た目だけで悩まず、正しく恐れ、正しく対処するための知識をお伝えします。

「手術は怖い」という飼い主さんにこそ知ってほしい、無麻酔でできる「針生検」という選択肢についてもお話ししますね。


「赤いイボ」の正体は?悪性の「肥満細胞腫」と良性の「組織球腫」

まず知っていただきたいのは、犬の皮膚にできる「赤いイボ」には、天と地ほど性質が違う2つの代表的な病気があるということです。

  1. 肥満細胞腫(悪性):
    「偉大なる模倣者」と呼ばれるほど、見た目は様々です。イボのように見えることもあれば、蚊に刺されたような腫れ、ただれのように見えることもあります。しかし、「赤く腫れている」というのは典型的な特徴の一つです。放置すると転移し、命に関わります。
  2. 皮膚組織球腫(良性):
    「イチゴ状」と呼ばれる、表面が赤くツルッとしたイボです。急に大きくなるのが特徴ですが、実はこれ、放っておくと数ヶ月で自然に消えてなくなることが多い良性の腫瘍です。若齢犬に多いですが、シニア犬でも発生します。

📊 比較表
肥満細胞腫と組織球腫の特徴比較

特徴 肥満細胞腫(悪性) 皮膚組織球腫(良性)
好発年齢 全年齢(シニアに多い) 3歳以下の若齢犬(シニアも可)
成長速度 急速に大きくなったり、小さくなったりする 急速に大きくなる
見た目 赤いイボ、腫れ、ただれなど様々 赤いイチゴ状、ドーム型
治療 手術、抗がん剤など 自然退縮(経過観察)、手術

この表を見て、「うちの子はどっちだろう?」と考えたかもしれません。しかし、残念ながらこの2つは獣医師でも見た目だけでは区別がつきません。 だからこそ、次のステップである「検査」が必要になるのです。


【セルフチェック】触ると赤くなる?家で確認できる「危険サイン」

病院に行く前に、ご自宅で確認できる「危険サイン」があります。

ただし、絶対に強く揉んだり、潰そうとしたりしないでください。

優しく観察するだけに留めてくださいね。

1. 「ダリエ徴候」はありませんか?

これが最も重要なチェックポイントです。

イボを優しく触ったり、少し刺激を与えたりした直後に、イボが赤く腫れ上がったり、周りの皮膚が蕁麻疹のように赤くなったりする反応を「ダリエ徴候」と呼びます。

もしこの反応が見られたら、肥満細胞腫(悪性)の可能性が非常に高いです。

肥満細胞腫は刺激を受けるとヒスタミンなどの物質を放出し、炎症を引き起こすからです。

これ以上触らず、すぐに病院へ行きましょう。

2. 成長スピードは異常ではありませんか?

「1週間で倍の大きさになった」「昨日より明らかに大きい」といった急激な変化も要注意です。

組織球腫も急に大きくなりますが、肥満細胞腫も同様の挙動を示します。

3. 出血やジュクジュクしていませんか?

イボの表面が自壊して出血していたり、ジュクジュクした液が出ていたりする場合、感染症のリスクもあります。

悪性腫瘍が崩れている可能性もあるため、早めの受診が必要です。


いきなり手術じゃない!無麻酔でできる「針生検」を知っていますか?

「病院に行ったら、全身麻酔で手術って言われるんじゃ…」
「10歳の子に麻酔をかけるのは怖い…」

そう思って受診をためらっている飼い主さんは多いです。

ですが、安心してください。

今の獣医療では、いきなりメスを入れることはまずありません。

まずは「針生検(FNA:細針吸引生検)」という検査を行います。

針生検(FNA)とは?

  • 無麻酔でOK: 採血に使うような細い注射針を、イボにチクリと刺して細胞を吸い取るだけです。
  • 痛みは最小限: 採血と同じくらいの痛みです。ほとんどのワンちゃんは、おやつを食べながらや、少し保定するだけで大人しくさせてくれます。
  • その場で分かることも: 院内の顕微鏡で細胞を見て、「肥満細胞腫か、そうでないか」の当たりをつけることができます。

針生検のイメージイラスト
この検査で「組織球腫(良性)」と分かれば、「手術なしで様子見しましょう」という診断書を持って帰ることができます。 これこそが、今あなたが一番欲しい「安心」ではないでしょうか?


もし悪性だったら…?シニア犬のための「切らない治療」の選択肢

「でも、もし検査で悪性(肥満細胞腫)って言われたら…やっぱり手術しかないの?」

確かに、肥満細胞腫の第一選択は手術です。早期(グレード1)であれば、手術で完全切除することで完治が望めます。

しかし、心臓が悪かったり、どうしても麻酔がかけられないシニア犬の場合は、「切らない治療」という選択肢もあります。

  • 分子標的薬(パラディアなど): ガン細胞の増殖を抑える飲み薬です。
  • ステロイド剤: 肥満細胞腫を小さくする効果が期待できます。
  • 緩和ケア: 痛みや痒みを取り除き、穏やかに過ごすことを最優先にします。

「悪性=絶望」ではありません。愛犬の状態と飼い主さんの希望に合わせて、ベストな方法は必ず見つかります。


「安心」を買うために、動物病院へ行こう

赤いイボを見つけた時、一番怖いのは「悩んでいる間に病気が進行してしまうこと」です。

肥満細胞腫は、早期発見できれば怖くない病気になりつつあります。

そして、組織球腫であれば、そもそも怖がる必要のない病気です。

どちらにせよ、答えは病院にあります。

「ただのイボでした、よかったですね」そう言ってもらうために、まずは針生検を受けに行きましょう。

かかりつけの先生に、「まずは針で検査してもらえますか?」と聞いてみてください。

その一言が、愛犬とあなたの安心への第一歩になります。

参考文献リスト

ライター紹介 Writer introduction

いずもいぬ

いずもいぬ

管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。

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