
動物病院リハビリ科チーフ。年間500頭以上のヘルニア・パテラのリハビリを担当。「難しい医学用語は使いません。愛犬の『痛み』を代弁し、飼い主さんが『名医』になれるようサポートします」をモットーに、シニア犬の生活環境指導を行っている。
「最近、ソファに飛び乗らなくなったな……」
「散歩の途中で、急に座り込むことが増えた気がする」
そんな愛犬の小さな変化に、胸を痛めていませんか?
「もう歳だから仕方ないのかな」と諦める前に、少しだけ耳を傾けてください。
それは単なる老化ではなく、愛犬の骨格からの「SOS」かもしれません。
実は、犬の体は人間とは全く違う「弱点」を抱えています。
特にトイプードルやダックスフンドといった犬種は、その愛らしい体型の裏に、関節や背骨への爆弾を抱えているようなものなのです。
でも、怖がる必要はありません。骨格の仕組みを知れば、守り方がわかります。
この記事では、難しい専門用語は一切使いません。
リハビリの現場に立つ私が、愛犬の足腰を守るために「今日から家でできること」を、わかりやすくお伝えします。
人間とはここが違う!犬の骨格にある「2つの致命的な弱点」
まず、犬の体が人間といかに違うか、2つのポイントだけでいいので覚えてください。
これを知るだけで、愛犬への接し方がガラリと変わるはずです。
弱点1:犬には「鎖骨」がない
驚かれるかもしれませんが、犬には人間のような鎖骨がありません(退化して小さな浮遊骨になっています)。
人間は鎖骨があるおかげで、腕を横に広げたり、重いものを持ち上げたりできます。
しかし、犬の前足は、なんと筋肉だけで胴体と繋がっているのです。
イメージしてください。車体(胴体)とタイヤ(前足)が、バネ(筋肉)だけで繋がっている状態です。
この「筋肉のサスペンション」は、走る時の衝撃を吸収するには優秀ですが、「引っ張られる力」や「想定外の方向からの衝撃」には極端に弱いのです。
弱点2:背骨が「吊り橋」のように水平
人間は二足歩行なので、背骨が垂直に積み重なり、重力をうまく分散できます。
対して犬の背骨は、地面と水平です。これは、重力に対して常に「吊り橋」のように耐えている状態です。
特に胴が長い犬種の場合、吊り橋が長くなる分、真ん中(腰)にかかる負担は計り知れません。

トイプードルは「パテラ」、ダックスは「ヘルニア」。犬種別リスクの正体
犬種によって、骨格の弱点はさらに顕著になります。
ここでは代表的な2犬種について解説します。
トイプードル:膝のお皿が外れやすい「パテラ」
トイプードルは骨が細く華奢です。
特に膝の関節にある「お皿(パテラ)」が収まる溝が浅い子が多いため、ちょっとした衝撃で簡単にお皿が外れてしまいます。
これが「膝蓋骨脱臼(パテラ)」です。
アニコム損保のデータでも、トイプードルの保険金請求理由の第1位は「骨折」、第3位は「パテラ」と、骨格トラブルが突出しています。
ダックスフンド:腰が悲鳴を上げる「椎間板ヘルニア」
ダックスフンドは、改良によって手足が短く作られました。しかし、背骨の長さはそのままです。
短い足で長い胴体を支える構造は、常に腰にテコの原理のような強い力がかかり続けています。
そのため、背骨のクッションである椎間板が飛び出しやすく、ヘルニアの宿命を背負っているのです。
フローリングは「氷の上」と同じ?今すぐやるべき「床」の改革
では、そんな弱点だらけの愛犬を守るために、私たちは何ができるでしょうか?
一番の特効薬は、「床を変えること」です。
フローリングの床は、犬にとって「氷の上」と同じです。
ツルツル滑る床の上で、犬は転ばないように常に爪を立て、股関節を開いて踏ん張っています。
この「無意識の踏ん張り」が、毎日じわじわと関節や筋肉を痛めつけているのです。
「爪が食い込む素材」を選ぼう
滑り止めワックスだけでは不十分です。
犬が本来のグリップ力を発揮するには、爪が食い込む柔らかさが必要です。
📊 比較表
表タイトル: 愛犬の足腰を守る!床材選びの決定版
| 床材の種類 | 滑りにくさ | 掃除のしやすさ | コスト | おすすめ度 |
|---|---|---|---|---|
| フローリング | × 危険 | ◎ 拭くだけ | – | NG |
| コルクマット | ◎ 爪が食い込む | ○ 汚れた部分だけ交換可 | ○ 安価 | ◎ 最適 |
| タイルカーペット | ○ 滑りにくい | ○ 洗濯機で洗える | △ 枚数が必要 | ○ おすすめ |
| ジョイントマット | △ 表面が滑るものも | ○ 安価だが隙間にゴミ | ◎ 非常に安価 | △ 素材による |
おすすめはコルクマットやタイルカーペットです。
これらを敷くだけで、愛犬の歩き方が驚くほど軽やかになるはずです。
その「抱っこ」が命取り?獣医が教えるNG行動と正しいケア
最後に、日常の何気ない動作に潜む危険と、正しいケアについてお話しします。
NG行動1:脇の下に手を入れて持ち上げる
「高い高い」のように、脇の下に手を入れて持ち上げていませんか?
先ほどお話しした通り、犬には鎖骨がありません。
この抱き方は、前足を繋いでいる筋肉に全体重をかけることになり、「腕が抜ける」ような激痛と負担を与えてしまいます。
【正しい抱き方】
必ず片手でお尻を支え、もう片方の手で胸を包み込むようにして、背骨を地面と水平に保ったまま持ち上げてください。
NG行動2:ソファからの飛び降り
犬にとって、ソファからの飛び降りは「2階から飛び降りる」ほどの衝撃です。
特に下りの着地衝撃は、平地を歩く時の数倍の負荷が前足と腰にかかります。
【対策】
ソファやベッドには、必ず「ドッグステップ(犬用階段)」やスロープを設置してください。
最初はオヤツを使って誘導し、「ここを通ると楽だ」と覚えさせましょう。
まとめ:飼い主さんが、一番の「主治医」になれる
犬の骨格は、走るのには適していますが、現代の室内飼育環境には適応しきれていません。
だからこそ、飼い主であるあなたが「環境」を整えてあげる必要があります。
- フローリングにマットを敷く。
- 抱き方を変える。
- ドッグステップを置く。
どれも、今日からできることばかりです。
特別な治療や手術が必要になる前に、日々の小さな「おうちケア」で、愛犬の足腰を守ってあげてください。
その一枚のマットが、10年後の愛犬の笑顔と、元気に走り回る姿を作ります。
参考文献リスト
- 家庭どうぶつ白書2023 – アニコム損保
- 犬の病気事典・予防 – Petwell(ペットウェル)
ライター紹介 Writer introduction
いずもいぬ
管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。