【救急医監修】犬に噛まれたら何科へ?応急処置と病院選びの全知識

【救急医監修】犬に噛まれたら何科へ?応急処置と病院選びの全知識

犬に噛まれた直後、どうしていいか分からず、この記事にたどり着いたあなたへ。

突然のことで、きっと動揺し、不安な気持ちでいっぱいだと思います。

結論から言います。
①すぐに水道水で5分以上傷口を洗い、
②必ず今日中に病院へ
行ってください。

救急の現場では、犬に噛まれてパニックになりながら来院される方を毎日のように診ています。

大丈夫、まずは落ち着いてください。

一番いけないのは、焦って間違った手当をしたり、「これくらい大丈夫だろう」と様子を見てしまうことです。

この記事は、そんな緊急時のあなたのための「救急箱」です。

救急医である私が、具体的な応急処置から、あなたの状況に合わせた最適な病院選びまで、1分でわかるようにナビゲートします。

この記事を読み終える頃には、あなたの不安は安心に変わり、次に取るべき行動が明確になっているはずです。

[著者情報]

この記事を書いた人

斉藤 健司(さいとう けんじ)
救急科専門医 / 形成外科医

  • 地域基幹病院の救急センターで10年間、年間200件以上の動物咬傷を含む外傷患者の治療に従事。
  • 日本形成外科学会認定専門医。
  • モットーは「突然の怪我で不安なあなたの、最も頼れる最初の相談相手。専門用語は使いません。大丈夫、一緒に一つずつ対処していきましょう。」

まずは落ち着いて!今すぐやるべき応急処置は「洗浄」だけ

「消毒液をつけなきゃ!」「急いで絆創膏を貼らないと!」…そう思われるかもしれません。

ですが、待ってください。

犬に噛まれた直後にやるべき最も重要な応急処置は、流水洗浄、つまり水道水で傷口を洗い流すこと、ただ一つです。

なぜなら、犬の口の中の細菌を物理的に洗い流すことが、何よりも感染予防に繋がるからです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 「これくらいの傷なら大丈夫」という自己判断が、最も危険です。

なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、実際、救急外来には「数日前に噛まれただけだと思ったのに、パンパンに腫れて激痛が走る」と悪化してから駆け込んでくる方が後を絶たないからです。犬の牙は細く鋭いため、傷が小さく見えても細菌は皮膚の奥深くまで達しています。初期対応の重要性を、どうか覚えておいてください。

なぜ病院へ行くべき?犬の咬み傷に潜む3つの感染症リスク

「少し血が出ただけなのに、大げさじゃない?」と感じるかもしれません。

しかし、犬に噛まれた傷、すなわち咬創(こうそう)は、ただの切り傷とは全く異なります。

咬創が危険なのは、それが高い確率で感染症の原因となるからです。

日本創傷外科学会によれば、犬の咬創は約4~20%の確率で感染を起こすとされています。

特に注意すべき代表的な感染症を3つご紹介します。

  1. パスツレラ症: 犬の口内に常在している菌が原因です。受傷後、数時間という短時間で傷の周りが赤く腫れあがり、激しい痛みを伴うのが特徴です。
  2. 破傷風: 土の中にいる破傷風菌が、深い傷口から体内に侵入することで発症します。筋肉の痙攣などを引き起こし、命に関わることもある非常に危険な感染症です。
  3. 狂犬病: 発症すれば致死率ほぼ100%という恐ろしい病気ですが、厚生労働省によると、現在の日本国内では60年以上発生が確認されていません。そのため、日本にいる犬から感染するリスクは限りなくゼロに近いですが、万が一の知識として知っておくことは大切です。

これらの感染症リスクがあるため、専門家である医師による洗浄、抗生物質の投与などの適切な処置が絶対に必要になるのです。

【本題】犬に噛まれたら何科?状況別・最適な病院の選び方

さて、ここからが本題です。

病院受診という目的を達成するために、どの診療科を選べばよいのでしょうか。

救急外来で「何科に行けばいいですか?」というご質問は非常によく受けます。

その迷いを解消するため、各診療科の役割と選び方の基準を解説します。

📊 比較表
診療科別メリット・デメリット早わかり表

診療科 こんな人におすすめ メリット デメリット
形成外科 傷跡をきれいに治したい人、顔や手を噛まれた人 傷の治療に加え、傷跡の美容的な側面まで専門的に診てくれる クリニック数が少なく、緊急時に見つけにくい場合がある
外科 一般的な選択肢として。近くに形成外科がない場合 創部の洗浄や縫合など、外傷処置全般に対応可能 傷跡の専門的なケアは形成外科に劣る場合がある
整形外科 骨や関節の近くを深く噛まれた 骨や腱、神経へのダメージがないかを診断・治療できる 皮膚表面の傷跡をきれいに治すことは専門外
皮膚科 ごく浅い傷で、皮膚表面を軽く噛まれただけの人 皮膚の感染症治療が専門 深い傷や、縫合が必要な傷の処置はできないことが多い

病院で聞かれること・伝えるべきことリスト

病院に着いたら、医師に正確な情報を伝えることが、適切な診断と治療に繋がります。

パニックで頭が真っ白になってしまっても大丈夫。

このリストを医師に見せながら話してください。

  • いつ?: (例: 今から30分前)
  • どこで?: (例: 近所の路上で)
  • どんな犬に?: (例: 飼い主のわからない小型犬)
  • 犬の様子は?: (例: ワクチン接種状況は不明、特に異常な様子はなかった)
  • どんな処置をした?: (例: すぐに水道水で5分ほど洗った)
  • 破傷風の予防接種はいつ受けた?: (不明な場合は「不明」でOKです)

よくある質問(FAQ)

[セクションの目的]: あなたが抱くであろう補足的な疑問を解消し、満足度を最大化します。

Q1. 傷は縫ってもらえますか?

A1. いいえ、犬に噛まれた傷は、感染のリスクが非常に高いため、原則としてすぐには縫合しません。 傷口を開いたままの状態で十分に洗浄し、抗生物質で細菌を抑え、感染していないことを確認してから、後日改めて縫い合わせるか、自然に治るのを待ちます。これは、傷口を縫って細菌を閉じ込めてしまうと、内部で膿んでしまい、かえって治りが遅くなるのを防ぐためです。

Q2. 治療費はどのくらいかかりますか?

A2. 健康保険が適用されます。初診の場合、処置や薬の内容にもよりますが、おおよそ5,000円〜15,000円程度が目安となります。破傷風のワクチン(破傷風トキソイド)を接種する場合は、追加で費用がかかります。

Q3. 自分の飼い犬に噛まれた場合も病院に行くべきですか?

A3. はい、必ず受診してください。 たとえご自身の飼い犬で、狂犬病のワクチンをきちんと接種していても、口の中にいる常在菌(パスツレラ菌など)による感染症のリスクは変わりません。


まとめ:不安な時は、まず専門家を頼ってください

この記事では、犬に噛まれた直後に取るべき行動について、救急医の立場から解説しました。

最後に、最も大切なことを繰り返します。

  1. すぐに5分以上、水道水で傷を洗う
  2. 傷の大小にかかわらず、必ず今日中に病院へ行く
  3. 迷ったら形成外科か外科、夜間・休日は救急外来へ

正しい知識があれば、突然のアクシデントも怖くありません。

あなたの迅速で冷静な行動が、何よりもの治療です。

もし夜間や休日でどの病院に行けばいいか迷っているなら、ためらわずに#7119(救急安心センター事業)に電話するか、お近くの救急外来を受診してください。

あなたの不安を、どうか一人で抱え込まないでください。

ライター紹介 Writer introduction

いずもいぬ

いずもいぬ

管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。

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