犬の震えは病気?獣医師が教える緊急度チェックリストと安心ガイド

この記事を書いた専門家

斎藤 勝也(さいとう かつや)

獣医師 / さいとう動物クリニック院長

獣医師歴15年。一般内科、予防医療を専門とし、特に初めてペットを迎えるご家庭へのサポートに情熱を注いでいます。地域の飼い主様向けセミナーでの講演は年間50回以上。「動物たちの言葉にならないサインを、飼い主さんと一緒に読み解くこと」をモットーに、日々の診療にあたっています。初めての飼い主さんが抱える不安な気持ちに寄り添い、一番の味方でありたいと考えています。

 

愛犬がブルブル震える姿を見て、不安で心臓が縮む思いをしていませんか?

初めて犬を飼った方なら、なおさら心配になりますよね。

その震えがただ寒いだけなのか、それとも何か苦しいサインなのか、すぐには見分けがつかないものです。

でも、安心してください。犬の震えの多くは、寒さや少しの興奮など、心配のいらないケースです。

この記事では、万が一の危険なサインを見逃さないための「3つの緊急度チェックリスト」を、獣医師である私がご用意しました。

この記事を読み終える頃には、冷静に愛犬の状態を判断し、今すぐ何をすべきかが明確に分かり、あなたの不安は安心に変わっているはずです。


まずは落ち着いて。犬が震える「3つの大きな理由」

クリニックで診療していると、「うちの子、震えているんです!」というお電話を本当によく頂きます。

その声の裏にある「何か大変なことだったらどうしよう」という飼い主さんの不安、痛いほど伝わってきます。

しかし、まず知っておいてほしいのは、犬が震える理由は一つではないということです。

犬の震えは、大きく分けて以下の3つのカテゴリーに分類できます。

この全体像を理解するだけで、ぐっと冷静に状況を見られるようになりますよ。

  1. 生理的な震え(心配ないことが多い)
    人間が寒い時にブルっと震えるのと同じで、犬も体温を維持するために筋肉を震わせます。特にトイプードルのようなシングルコートの犬種や、脂肪の少ない子犬は寒さを感じやすいです。また、大好きな飼い主さんが帰ってきた時や、これから散歩に行けるという嬉しい興奮で、全身をブルブルと震わせることもあります。これらは体の自然な反応です。
  2. 精神的な震え(原因を取り除けば収まる)
    犬はとても繊細な動物です。雷や花火の大きな音、あるいは動物病院の独特な雰囲気など、強い恐怖や不安を感じると震え出すことがあります。犬の震えは、ストレスという精神的な原因から来ることも非常に多いのです。この場合、犬を安心できる環境に移してあげることが最も効果的な対処法になります。
  3. 病的な震え(注意が必要)
    そして、飼い主さんが最も心配されるのが、病気や痛みが原因の震えです。例えば、お腹が痛い時や、椎間板ヘルニアなどで背中に痛みがある時、犬は痛みを我慢して震えることがあります。また、後ほど詳しく解説しますが、低血糖症や中毒といった危険な状態が、震えという症状を引き起こすこともあります。

このように、震えの背景は様々です。

大切なのは、パニックにならずに「うちの子は、今どのタイプだろう?」と一歩引いて観察してみること。

その冷静な目が、正しい判断への第一歩となります。


1分で判断!命に関わる震えの緊急度チェックリスト

ここからがこの記事の核心部分です。

愛犬の震えが、様子を見ていて良いものか、それともすぐに動物病院へ連絡すべき緊急事態なのか。

その判断を助けるための、具体的なチェックリストをお伝えします。

これからお見せする3つのチェックポイントに一つでも当てはまったら、迷わず動物病院に連絡してください。

このチェックリストのポイントは、「震え単体」ではなく「震えと同時に起きている他の症状」に注目することです。

元気も食欲もあって、ただ震えているだけなら、緊急性は低いと判断できます。

しかし、震えに加えて他の異常が見られる場合は、何らかの病気が隠れているサインかもしれません。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 判断に迷ったら、必ずスマートフォンの動画で震えている様子を1〜2分撮影してください。

なぜなら、この動画は、私たち獣医師にとって診断の非常に重要な手がかりになるからです。動物病院に着いた時には症状が収まっていることも多く、飼い主さんの「こんな感じで震えていて…」という言葉だけでは正確な状況を把握しきれないことがあります。動画があれば、言葉で説明するよりもずっと正確に、客観的に状態を伝えられます。


チェックリストで問題なし!考えられる「心配ない震え」の原因と対処法

先のチェックリストで、緊急性の高いサインが見られなかった場合、ひとまず安心してください。その震えは、病気以外の原因による可能性が高いです。

ここでは、よくある「心配ない震え」の具体的な原因と、ご自宅ですぐにできる対処法をQ&A形式で客観的に解説します。

Q1. 部屋は暖かいはずなのに、寒さで震えることはありますか?

A1. はい、あります。特に、濡れた体でいる時や、フローリングに直接寝そべっている時など、犬は体感温度として寒さを感じていることがあります。

  • 対処法: 乾いたタオルで体を拭き、暖かいブランケットをかけてあげましょう。ペット用のヒーターや、室温を1〜2度上げることも有効です。

Q2. 雷や来客にひどく怯えて震えが止まりません。どうすればいいですか?

A2. 犬の震えは、恐怖や不安といった強いストレスが原因で起こることがよくあります。

  • 対処法: まずは犬を安心させることが最優先です。飼い主さんが優しく抱きしめてあげたり、「大丈夫だよ」と声をかけたりするだけでも、犬の気持ちは落ち着きます。可能であれば、音が聞こえにくい部屋に移動させたり、クレートなど犬が安心できる狭い場所に入れてあげたりするのも良い方法です。

Q3. ご飯の前や散歩の前に、興奮して震えます。これは大丈夫ですか?

A3. はい、問題ありません。嬉しい気持ちや期待感が高まって、体が自然に反応しているだけです。

  • 対処法: 特に対処は必要ありませんが、あまりに興奮が強い場合は、「おすわり」や「まて」などの指示で一度落ち着かせるトレーニングをするのも良いでしょう。

よくある質問:これって大丈夫?犬の震えQ&A

最後に、飼い主さんから特によく寄せられる質問について、誠実にお答えします。

Q. 「震え」と「けいれん」はどう違うのですか?

A. これは非常に重要なポイントです。「震え」と「けいれん」は、見た目が似ていることがありますが、原因と緊急度が全く異なります。
一番の違いは意識の有無です。

  • 震え: 意識ははっきりしており、呼びかけに反応します。
  • けいれん: 意識がなく、呼びかけに反応しません。体を硬直させたり、手足をバタつかせたりすることが多く、失禁やよだれを伴うこともあります。
    もし「けいれん」が疑われる場合は、時間や症状を記録し、すぐに動物病院に連絡してください。

Q. 子犬や老犬は、特に震えやすいのでしょうか?

A. はい、その傾向はあります。

  • 子犬: 体温調節機能が未熟で、筋肉量も少ないため、寒さで震えやすいです。また、様々なことに慣れていないため、恐怖や不安を感じやすいです。
  • 老犬(シニア犬): 筋力の低下により、立っているだけで足がプルプルと震えることがあります。また、関節の痛みや体温調節機能の衰えも、震えの原因となります。

Q. 病院に行く前に、準備しておくことはありますか?

A. 素晴らしい質問ですね。準備をしておくと、診察がとてもスムーズに進みます。

  1. 動画: 先ほどお伝えした、震えている様子の動画。
  2. メモ: いつから震えが始まったか、どんな時に震えるか、震え以外の症状はないか、などを簡単にメモしておきましょう。
  3. 食べたもの: 直近で変わったものやおやつを食べていないか、思い出しておいてください。

まとめ:あなたの観察眼が、愛犬を守る一番の力です

愛犬の震えに気づいたら、まずはパニックにならず、この記事の緊急度チェックリストを使って、震え以外の症状がないか冷静に観察することが何よりも重要です。

あなたのその丁寧な観察眼が、愛犬の健康を守る何よりの武器になります。

愛犬の小さな変化に気づけたご自身に、どうか自信を持ってくださいね。

それでも判断に迷う時、どうしても不安が拭えない時は、決して一人で抱え込まないでください。

震えている様子をスマホで動画に撮って、かかりつけの動物病院に電話で相談しましょう。

それが、あなたと、あなたの大切な家族である愛犬にとって、最も確実で安心できる選択です。

 

[参考文献リスト]

この記事を作成するにあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。

ライター紹介 Writer introduction

いずもいぬ

いずもいぬ

管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。

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