

この記事の著者:佐藤 啓介(獣医師・ホリスティックケアカウンセラー)
皮膚科・行動学に精通。「皮膚は内臓の鏡」を信条に、難治性皮膚疾患の犬たちを「脱ステロイド・減薬治療」へと導く。飼い主さんの心に寄り添い、西洋医学と自然療法を組み合わせたケアを提案しています。
夜中、静まり返った部屋に響く「チャプチャプ、チャプチャプ……」という愛犬の足舐めの音。
ふと気になって電気をつけてみると、愛犬が前足を抱え込むようにして一心不乱に舐め続けている。
そして、その足裏の毛は、以前の白い毛並みとは程遠い、痛々しい赤茶色に変色してしまっている。
そんな光景を見て、「私が仕事で留守番ばかりさせているから?」「寂しい思いをさせているストレスのせい?」と、胸が締め付けられるような罪悪感を感じていませんか?
安心してください。
獣医師として多くの皮膚トラブルを診てきましたが、足舐めの原因が単なる「寂しさ(ストレス)」であることは、実はとても稀です。
そのほとんどは、飼い主さんの愛情不足などではなく、「皮膚バリア機能の低下」や「隠れた痒み」といった、身体的なSOSによるものです。
この記事では、自分を責めてしまいがちな飼い主さんのために、ステロイドなどの強い薬に頼りすぎず、「腸内環境」と「スキンケア」から愛犬の体質を根本的に変えていく方法をお伝えします。
今日から、愛犬の「肌」と「腸」の声に耳を傾けていきましょう。
「寂しいから」は誤解?足舐めの9割は「体からのSOS」です
「足舐め=ストレス」というイメージは非常に根強いですが、獣医皮膚科の現場では、少し違った見方をしています。
犬は「痒い」と言えないから「舐める」
私たち人間は、蚊に刺されて痒ければ「痒い!」と言って手で掻きますよね。
しかし、犬は言葉を話せません。そして、手先も器用ではありません。
だからこそ、犬にとって「舐める」という行為は、痒みや痛みに対する唯一の対処法なのです。
つまり、多くの飼い主さんが「ストレス行動」だと思っているその仕草は、実は「痒くてたまらない」「関節が痛む」という身体的な苦痛のサインである可能性が非常に高いのです。
実際、足舐めを主訴に来院される犬の9割以上で、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、あるいは関節炎などの身体的疾患が見つかります。
純粋な心因性(ストレス)のケースは、残りの1割程度に過ぎません。
ですから、「私のせいだ」と自分を責める必要は全くありません。
むしろ、「痒かったんだね、気づいてあげられなくてごめんね」と声をかけ、身体のケアに目を向けてあげることが解決への第一歩です。
【チェックリスト】これって病気?ストレス?危険なサインの見極め方
「でも、うちの子は本当に病気なの? やっぱり癖なんじゃない?」
そう迷われる方のために、自宅でできる簡易チェックリストを作成しました。
愛犬の行動を思い出しながら確認してみてください。

いかがでしたか?
もし「病気の可能性大」に当てはまる項目があれば、それは強い痒みや痛みが生じている証拠です。
しつけやスキンシップで解決しようとせず、まずは獣医師に相談してください。
赤茶色の「舐め焼け」は菌の仕業!やってはいけないNGケアとは
愛犬の足先が、赤茶色に変色していませんか?
この変色を「よだれ焼け」や「汚れ」だと思っている方が多いのですが、実はこれ、「マラセチア酵母」という菌が増殖しているサインなのです。
変色の正体は「菌の排泄物」
マラセチア酵母と舐め焼けには、明確な因果関係があります。
マラセチアは、犬の皮膚に普段から住んでいる常在菌(じょうざいきん)ですが、湿気を好むため、犬が足を舐めて常に濡れた状態になると爆発的に増殖します。
そして、この菌が出す排泄物が、毛を赤茶色に変色させるのです。
つまり、あの色は「汚れ」ではなく「菌が増えている証拠」なのです。
「散歩のたびに洗う」は逆効果!
ここで、多くの飼い主さんが陥りがちな最大の失敗についてお話しします。
それは、「汚いから」「菌がいるから」といって、散歩のたびにシャンプーや石鹸でゴシゴシ足を洗ってしまうことです。
皮膚バリア機能とシャンプーは、対立する関係にあります。
犬の皮膚は人間よりも薄くデリケートです。
頻繁に洗うと、皮膚を守っている皮脂膜や常在菌のバランス(皮膚バリア機能)が破壊されてしまいます。
バリアが壊れた皮膚は、無防備な城のようなもの。
かえってマラセチア菌が侵入しやすくなり、痒みが悪化するという悪循環に陥ります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 散歩後のケアは「洗う」のをやめて、「濡れタオルで拭く」程度に留めましょう。
なぜなら、私が診てきた「なかなか治らない足舐め」の多くは、飼い主さんの「洗いすぎ」が原因で皮膚バリアがボロボロになっていたからです。「清潔にしなきゃ」という思いが、皮肉にも愛犬の肌を傷つけていることがあります。勇気を持って「洗いすぎないケア」へ切り替えてみてください。
薬に頼りすぎない!「腸活×保湿」で繰り返す痒みを断つ方法
「病院に行くとステロイドを出されるけど、ずっと飲ませるのは不安…」
そう思う飼い主さんにこそ試してほしいのが、「腸内環境(腸活)」と「スキンケア(保湿)」による体質改善です。
1. 腸活:皮膚の炎症は「腸」から治す
「皮膚の病気なのに、なぜ腸?」と思われるかもしれません。
しかし、最新の研究で「腸内環境」と「アトピー性皮膚炎」には密接な相関関係(腸皮相関)があることが分かってきています。
腸には体内の免疫細胞の約7割が集まっています。腸内環境が悪化して免疫バランスが崩れると、体全体が「アレルギー反応を起こしやすい状態」になり、結果として皮膚に痒みが出るのです。

薬で一時的に痒みを止めても、この「根本原因」が変わらなければ、薬をやめた途端に再発します。
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)や、その餌となるプレバイオティクス(オリゴ糖など)を食事に取り入れ、体の中から「痒くなりにくい体」を作っていきましょう。
2. 保湿:バリア機能を「外」から補う
腸活と同時に行いたいのが、正しいスキンケアです。
先ほど「洗いすぎない」とお伝えしましたが、それに加えて「保湿」が非常に重要です。
舐めて荒れてしまった皮膚は、乾燥してスカスカの状態です。
セラミドなどが配合された犬用の保湿剤を塗ることで、人工的にバリアを作ってあげましょう。
保湿ケアは、マラセチア菌などの外部刺激をブロックする盾となります。
「洗う」ことよりも「保湿する」ことにエネルギーを使ってください。
よくある質問:エリザベスカラーは必要?
最後に、診察室でよく聞かれる質問にお答えします。
Q. エリザベスカラーはずっとしておくべきですか?
A. 傷がひどい時は必須ですが、あくまで「一時的な守り」です。
皮膚がジュクジュクしている時などは、物理的に舐めさせないためにカラーが必要です。しかし、カラーは「治す道具」ではありません。原因(痒みや痛み)を取り除かないままカラーをし続けると、犬にとって大きなストレスになります。「カラーを外せる時間を少しずつ増やすこと」を目標に、治療とケアを進めましょう。
Q. 市販の塗り薬は効きますか?
A. 舐めてしまうので、逆効果になることもあります。
人間用のオロナインや市販の痒み止めを塗る方がいますが、犬は気になってすぐに舐め取ってしまいます。薬の成分を摂取してしまうリスクもありますし、塗った刺激で余計に舐めることもあります。自己判断で薬を塗る前に、まずは「保湿」を優先してください。
まとめ:愛犬の「自己治癒力」を信じて。今日からできる「おうちケア」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「私のせいでストレスを感じているのかも」という不安は、少し解消されたでしょうか?
愛犬の足舐めは、飼い主さんへの不満ではなく、「体質改善してほしい」という体からのサインです。
- 足舐めは「ストレス」より「痒み」を疑う。
- 「洗いすぎ」をやめて「保湿」をする。
- 「腸活」で体の中から免疫を整える。
薬で症状を抑え込むだけでなく、飼い主さんがこの3つを意識して「腸」と「肌」を整えてあげることで、愛犬の体は必ず変わります。
焦らず、ゆっくりと。愛犬の持つ自己治癒力を信じて、今日からできるケアを始めてみてくださいね。
参考文献
- 【皮膚】犬の肢端舐性皮膚炎について – 東京動物皮膚科センター
- 犬が足をずっとなめている!原因と対策 – FINAL ANSWER
- KINS WITH 動物病院 – KINS WITH
ライター紹介 Writer introduction
いずもいぬ
管理人:いずもいぬ(五十代前半) 家 族:子供1人とワンコの4人家族 居住地:大阪の出身で東京生活を踏まえ、現在は山陰で田舎暮らしをしています。 犬の健康管理や躾について、愛犬のラブラドールレトリバーとの経験を交えてご紹介しているホームページになります。
-
犬の耳掃除は「拭くだけ」でいい。獣医師が教える、洗浄液を入れない安全ケア
記事がありません